遺留分の算定と平成21年最判

遺留分の侵害額については、民法及び判例において一定の方式が決められています。それによれば、遺留分の侵害額={(没時の財産)+(贈与額)−(債務)}×(遺留分割合)×(法定相続分)−(取得財産)+(相続債務)、となることになります。
そして、このような遺留分算定について、相続人の一人が遺産の全部を取得する旨の遺言がある場合について最高裁判所平成21年3月24日判決は、「相続人のうちの一人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされ、当該相続人が相続債務もすべて承継したと解される場合、遺留分の侵害額の算定においては、遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されないものと解するのが相当である」と判示しました。
しかし、この相続債務については、節税目的のためにビルやマンションを建築し、その建築費用等に充てられるものもあります。そうすると、この債務は賃料収入により確実に弁済がなされ、数十年後には順調に弁済がなされ全額弁済ということになる場合が多くあります。
そうすると、遺言により全財産を取得したものは、さしたる遺留分の価額弁償をすることもなく、数十年後には債務全額の弁済を得られるものであり、これでは遺留分制度の趣旨に合致するか否かにつき疑義を感ずるところであります。
経済的実態もふまえて、前記最判は再検討を要する点があるのではないかとの思いを強くします。