「悪人」-殺人か、傷害致死か?

映画「悪人」を観ました。重苦しい閉塞感から、出会い系のメール、そして殺人へとストーリーは展開していきます。
 原作と違和感なくまとまっているのには感心しました。作家自らが脚本作りに加わっているからなのでしょう。主人公は言うまでもなく、名脇役達によって作品の格・質共に大変高い物になっています。
 作品中の若者は、世界中とつながることができる携帯や、どこにでも移動できる車という道具を持ちながら皮肉にも行動範囲はせいぜい近隣県です。広い世界に出ることをしようとしませんし、又できません。閉じこめられた若者の、行き場のない孤独感と一種の諦念が伝わって来て息苦しい程です。また、単調で平凡な人々のささやかな生活が、悲劇と紙一重というもろさや危うさをも見る物語でもありました。しかし、その重苦しい絶望の中に全く救いが無かったわけではありません。特にラストシーンがいつまでも心に残る、本当に見応えのある作品でした。
 ちなみに、弁護士的にみると、本件犯行は、計画性のなさ、動機の弱さ、犯行態様等より殺人罪ではなく、傷害致死罪として弁護したくなる事案です。そして、量刑如何も気になります。裁判員裁判だと結構難しいのかな、とも思いました。