芭蕉、最後の句


 芭蕉が最後に詠んだ句は、「旅に病んで 夢は枯野を かけ廻る」とされています。事実、芭蕉は、この句を元禄7年10月8日に病中吟と称して詠んだとされ、同月12日に亡くなっています。
 芭蕉は、病床で何度か推敲を重ね、「なほかけ廻る夢心」とか「枯野を廻るゆめ心」とすべきか等思案した、との話を伝え聞いています。やはり元の句が後世に残る珠玉の俳句と思われます。
 しかし、私はずっと上五を「旅に病み」と勘違いしていました。芭蕉の俳句は、きれいに五・七・五となるものが多く、句の流れからしても「旅に病み」の方がすっと流れる感もします。
 芭蕉は、何故「旅に病んで」とあえて字余りの作句をしたのか。やはり天才、俳聖の真意は凡人にははかり難いところですが、そこには事実上の辞世の句としての重みや無念さが滲み出てくるのではないでしょうか。「旅に病んで」と流れを一旦止めるところに芭蕉の強い思い入れをくみ取るべきでしょうか。